萩原 「既に2回も警告されています。裏紙を使うのはもう止めてください」
職員 「私は高校を卒業して40年以上にも渡り、真面目に仕事をしてきた。初めて私が先輩から
褒められた仕事が裏紙で作成した「メモ帳」です。この作業を今さら環境が変わったから
といって止めるのは……」
萩原 「市役所での情報漏えい事件について、詳しくお聞きしていますよね。このままでは
誠に申し訳ないのですが、懲戒免職となり退職金も貰えなくなってしまいますよ。
あなたのお考えは理解できますが、明らかに現在の状況としては極めてまずいです。
たった1人のために同じことが起きれば、市役所全体の責任になってしまいます。
もし今後も警告を無視されるのであれば、双方にとって悲劇が待っています。
“昔の良き時代”はもうありません。再度お尋ねします。まだ、あなただけこの行為を
続けますか?」
職員 「(しばらくの沈黙の後)分かりました。確かに紙情報の管理は大変で、職員が一丸と
なり意識を高め、この危機を乗り越える必要があると感じていました。今後は必ず
シュレッダーにかけるように努めたいと思います」
こうして、やっと協力を得ることができた。若い職員の中には、つい、コピーミスした用紙を
使ってしまっていたケースもあったが、中高年者の意識が高まるにつれて、その意識が確実に
若い方々に浸透していったのである。
■一番の脆弱性とは?
読者の中には、「なぜ、まったく記載のないコピー用紙もシュレッダーにかけないといけないのか
理解できない」と感じるかもしれない。しかし、実際の問題として一番に大きな脆弱性は「人間」
そのものなのである。
もしこの規則において、「ただし、コピー用紙でも両面をよく確認して文字や図の記載が一切ない
と認められる場合にはその限りではない」と規則を変えればいいと考えるのであれば、それは、
机上の空論と言うしかない。なぜなら、コピー用紙の両面に文字情報や図や写真などの掲載が
なければと人間が判断する――そういう例外規定を設けると、それだけでこの規則は“ざる”に
なってしまう危険を生じてしまう。
なぜなら、「私は確認した。でもたまたま確認漏れで文字情報があっても分からなかった」とか、
「多忙ゆえに、確認したつもりでもついつい見落としがあったのだと思う」といって、逃れる人が
後を絶たなくなってしまう事態が起こりかねないのだ。そうやって再び情報漏えい事件が発生しても、
「仕方なかった」と言い訳するのは明らかだからである。コピー用紙なら例外は認めない。それが
運用上最もシンプルだし、人間が確認するという行為は、市役所全体として考えると相当な作業時間
のロスになってしまうことも関係してくるのである。
読者の所属する企業や地方自治体、組織でも、ぜひこうした取り組みを検討してはいかがだろうか。
◎執筆者/萩原栄幸
一般社団法人「情報セキュリティ相談センター」事務局長、社団法人コンピュータソフトウェア
著作権協会技術顧問、ネット情報セキュリティ研究会相談役、CFE 公認不正検査士。